PROJECT EDEN 第9章

AI・プログラミング

第9章

最初の一軒

未来設計室の会議室。

壁一面のスクリーンに映し出されているのは、灰色の月面だった。

白石はゆっくりと口を開いた。

「地下都市を造る。」

「その考え方には、皆さん納得していただけたと思います。」

部屋の全員がうなずく。

「しかし。」

白石は一枚の白紙を掲げた。

「今の私たちには、街はありません。」

「道路もありません。」

「電気もありません。」

「水もありません。」

「つまり、何もない場所から最初の一軒を建てなければならない。」

その言葉に、会議室は静まり返った。


家は一日では建たない

白石はホワイトボードに一本の線を引いた。

その左端に、

「ロケット着陸」

右端に、

「人類入居」

と書く。

「この間には、何が必要でしょう。」

水野が答える。

「資材の搬入。」

佐藤。

「通信設備。」

森川。

「電力。」

別の研究者。

「水。」

「酸素。」

「建設機械。」

次々に意見が出る。

白石はすべてを書き込みながら言った。

「つまり、人類が住む前に、一つの街を運営できるだけの機能を完成させなければならない。」

「だからPROJECT EDENは、建設計画ではありません。」

「都市建設計画なのです。」


第一陣は人ではない

スクリーンに一機の大型貨物着陸船が映し出される。

「第一便には、人間は乗りません。」

白石は断言した。

「運ぶのは四つだけです。」

画面が切り替わる。

① 建設ロボット

② 掘削ロボット

③ 発電設備

④ AI制御センター

「この四つが、すべての始まりになります。」

悠真が尋ねる。

「食料は積まないんですか。」

白石は首を横に振った。

「まだ人がいません。」

「最初に必要なのは、働く仲間です。」


AIが現場監督になる

佐藤が新しい画面を映した。

建設現場だった。

十数台の建設機械が、それぞれ違う作業をしている。

「これは現在の地球の建設現場です。」

「すでにAIが作業計画を最適化する研究が進んでいます。」

画面が月面へ変わる。

「PROJECT EDENでは、この考え方をさらに発展させます。」

掘削ロボット。

運搬ロボット。

組立ロボット。

点検ドローン。

それぞれが作業を続ける。

「AIは一台一台を操作しません。」

「全体を管理します。」

「まるで建設現場の現場監督のように。」

悠真は思わず笑った。

「現場監督がAIですか。」

「そう。」

水野も笑う。

「そして作業員は全部ロボット。」


月で家は建てられない

白石は建物の完成予想図を消した。

代わりに地下断面図を映す。

「皆さん。」

「月では地球のような建物は造れません。」

「まず穴を掘ります。」

地下へ伸びる巨大な空間。

「その内部へ、地球から運んだ居住モジュールを設置します。」

森川が補足する。

「完成したら、周囲をレゴリスで埋め戻します。」

「屋根の代わりに、数メートルの土が街を守ります。」

「放射線も。」

「隕石も。」

「極端な温度変化も。」

「全部、この天然の壁が防いでくれるのです。」


地球と同じではない

悠真は模型を見ながら質問した。

「でも、重力は地球の六分の一ですよね。」

「建設方法も変わるんじゃないですか。」

白石はうれしそうに笑った。

「そこが一番面白いところです。」

スクリーンに映るシミュレーション。

巨大な梁をロボットが持ち上げる。

「地球では数十トンある構造物でも、月では重さは約六分の一になります。」

「もちろん質量は変わらないので慣性には注意が必要ですが、重力が小さいため、大型構造物を扱いやすくなる場面もあります。」

「つまり。」

「月だから難しい仕事もあれば、月だから簡単になる仕事もある。」

「私たちは、その両方を理解した設計をしなければなりません。」


最初の灯り

白石は部屋の照明を消した。

真っ暗になる。

「これが月です。」

次の瞬間、小さな光が一つ灯る。

「発電設備完成。」

もう一つ。

「通信開始。」

さらに一つ。

「地下居住区完成。」

最後に無数の光が広がる。

学校。

病院。

研究所。

住宅。

農場。

地下都市全体が輝き始める。

誰も言葉を発しなかった。

その光景は、未来ではなく、

「実現すべき計画」

として全員の心に刻まれた。


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会議が終わる直前、一人の若い研究者が手を挙げた。

「一つだけ質問があります。」

「もしロボットが故障したら。」

「誰が修理するんですか。」

部屋の空気が止まる。

白石は静かに答えた。

「いい質問です。」

「PROJECT EDEN最大の課題は、そこにあります。」

「月には、修理に行ける整備士はいません。」

「だから——。」

白石は新しい設計図を映した。

そのタイトルは、

『ロボットがロボットを修理する自己維持システム』

悠真は息をのんだ。

街を造るだけでは足りない。

街は、自分自身を守り、育て続けなければならない。

PROJECT EDENは、さらに大きな挑戦へ進もうとしていた。

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