第14章
月の土から街を造る
未来設計室。
机の中央に、小さな灰色のブロックが置かれていた。
大きさはレンガほど。
見た目はコンクリートにも似ている。
しかし、色は月面の写真で見た灰色そのものだった。
悠真は恐る恐る手に取る。
思ったより重い。
「これが……。」
水野は静かにうなずいた。
「月の土を再現した材料から作った試作品です。」
土は資源になる
白石は世界地図ではなく、今度は月の断面図を映した。
「私たちは今まで。」
「月の土を障害物として考えていました。」
スクリーンには砂嵐のようなレゴリスが映る。
「しかし考え方を変えます。」
「これは資源です。」
悠真が尋ねる。
「土が建物になるんですか。」
「そのままではなりません。」
水野が説明を始める。
「月の表面を覆うレゴリスには、岩石が細かく砕かれた粒子や、さまざまな鉱物が含まれています。」
「研究では、このレゴリスを焼き固めたり、特殊な結合材を使ったり、3Dプリンターで積み重ねたりして、建築材料として利用できないか試験が進められています。」
「つまり。」
「月には、街の材料が最初からあるということです。」
運ばないという発想
橘が一枚の表を映した。
| 地球から運ぶ | 月で作る |
|---|---|
| レンガ | ○ |
| 道路 | ○ |
| 壁材 | ○ |
| 金属部品 | 一部可能 |
| 半導体 | × |
| 精密電子機器 | × |
「これまでは、すべてを地球から運ぶ前提で考えていました。」
「でも、それでは限界があります。」
「ロケットの積載量にも限りがあります。」
「費用も時間もかかります。」
白石が続ける。
「だから。」
「運ぶのは材料ではなく、材料を作る技術です。」
部屋の全員が静かにうなずいた。
巨大な3Dプリンター
スクリーンに新しい映像が映る。
巨大なアーム。
その先端から少しずつ材料が積み重なっていく。
悠真は驚いた。
「家を印刷している……。」
水野が笑う。
「まさにその通りです。」
「大型3Dプリンターです。」
「設計図どおりに少しずつ材料を積み重ね、壁や構造物を作ります。」
「月では、この材料にレゴリスを利用できないか研究されています。」
白石が付け加える。
「人がレンガを積む時代から。」
「ロボットが街を印刷する時代へ。」
「建設そのものが変わろうとしています。」
捨てるものは何もない
森川は循環システムの図を映した。
レゴリスは建材になる。
水は飲料や農業に使われる。
空気は循環する。
植物は食料となり、酸素を生み出す。
不要になった部品は回収され、材料として再利用される。
「PROJECT EDENの目標は、できる限り廃棄物を出さないことです。」
「月では簡単に新しい物を買うことはできません。」
「だから、壊れた物も資源として使い続けます。」
悠真は思わず笑った。
「月にはゴミ収集車も来ませんからね。」
部屋に笑いが広がった。
しかし、その笑顔の裏で、誰もがこの課題の重さを理解していた。
地球の未来
白石は一枚の写真を映した。
洪水。
干ばつ。
砂漠化。
巨大地震。
「皆さん。」
「PROJECT EDENは、月だけのための計画でしょうか。」
誰も答えない。
「違います。」
「水を無駄にしない技術。」
「エネルギーを効率よく使う技術。」
「資源を循環させる技術。」
「災害に強い建築。」
「これらは、すべて地球にも必要です。」
「月で培われた技術は、地球へ戻り、人類全体の暮らしを豊かにするでしょう。」
悠真は静かにうなずいた。
PROJECT EDENは、月へ逃げる計画ではない。
地球をより良くするための挑戦でもあるのだ。
最初の建材
会議が終わるころ。
水野は机の上の灰色のブロックを悠真へ手渡した。
「持ってみてください。」
悠真はもう一度、その重さを感じた。
ただの灰色の塊。
しかし今は違う。
学校にも見えた。
病院にも見えた。
未来の家にも見えた。
「街って。」
悠真は小さくつぶやく。
「こういう一つの材料から始まるんですね。」
白石は静かに微笑んだ。
「文明も同じです。」
「大きな夢は、いつも小さな一歩から始まります。」
第15章へ
その夜。
未来設計室に一本の連絡が入る。
「AI建設シミュレーションが完了しました。」
スクリーンに表示された数字を見て、佐藤が息をのむ。
「成功確率……。」
白石も画面を見つめた。
そこには、誰も予想していなかった結果が表示されていた。
その数字は、PROJECT EDENの未来を大きく左右することになる。


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