第12章
月の南極を調べろ
未来設計室。
大型スクリーンいっぱいに映し出されたのは、一枚の月面写真だった。
そこには広大な灰色の世界が広がっている。
悠真は静かにつぶやいた。
「ここが……候補地。」
白石はうなずいた。
「正確には、月の南極地域です。」
「PROJECT EDENは、この場所から始まります。」
なぜ南極なのか
白石は月の模型をゆっくり回転させた。
「地球には北極と南極があります。」
「月にも同じように極があります。」
スクリーンには、月の南極付近を真上から見た地図が映し出された。
大小さまざまなクレーター。
山脈のような尾根。
そして、ところどころ黄色く塗られた場所。
「この黄色い部分は何ですか?」
悠真が尋ねる。
「太陽の光を長時間受けられる場所です。」
白石が答える。
「月では昼と夜が約二週間ずつ続きます。」
「しかし南極付近には、地形の影響で比較的長い時間、太陽光を受けられる尾根があります。」
「そのため、太陽光発電に適した場所として世界中が注目しています。」
光の当たらない世界
次に映し出されたのは、真っ黒なクレーターだった。
「こちらは逆に、一度も太陽光が届かない場所があります。」
「一度も?」
悠真は思わず聞き返す。
「はい。」
白石はうなずいた。
「何十億年もの間、太陽の光が差し込んでいないと考えられています。」
部屋が静まり返る。
「そこは非常に低温です。」
「氷が残っていても不思議ではありません。」
水は命になる
森川が立ち上がった。
「水は飲むためだけではありません。」
スクリーンに水の分子式が映る。
H₂O。
「水を電気分解すると。」
酸素。
水素。
二つの文字が現れる。
「酸素は呼吸に使えます。」
「水素は燃料にも利用できます。」
「つまり。」
「水が見つかれば。」
「空気も。」
「燃料も。」
「生活も。」
「すべてにつながります。」
悠真は小さくうなずいた。
「だから世界中が南極を目指しているんですね。」
「その通りです。」
地下は本当にあるのか
今度は水野が話し始めた。
「もう一つ期待されているものがあります。」
画面には巨大な洞窟のCGが映る。
「月には、地下へ続く縦穴が存在すると考えられています。」
「これは昔、地下を流れていた溶岩によってできた空洞、いわゆる『溶岩洞』が天井の一部だけ崩れて見つかったものではないか、と研究されています。」
悠真は驚いた。
「天然の地下空間……。」
「もし十分な広さと安定性が確認できれば。」
「一から巨大な空間を掘削するよりも、建設の負担を大きく減らせる可能性があります。」
白石が続ける。
「ただし、まだ内部の詳細は分かっていません。」
「実際に利用できるかどうかは、これからの探査で確かめる必要があります。」
まず調べる
悠真が言った。
「ということは。」
「いきなり街を造ることはできませんね。」
白石は笑った。
「その通りです。」
ホワイトボードに新しい工程が書かれる。
第一段階。
探査。
第二段階。
資源調査。
第三段階。
試験建設。
第四段階。
地下都市建設。
「PROJECT EDENは、最初から都市を造る計画ではありません。」
「まず月を知ることから始まります。」
AI探査隊
佐藤が新しい映像を映した。
小型ローバー。
飛行ドローン。
地中レーダー。
小型掘削ロボット。
「第一陣は建設ロボットではありません。」
「探査ロボットです。」
「地形。」
「岩盤。」
「レゴリスの厚さ。」
「地下空洞。」
「氷。」
「すべてをAIが調査します。」
「そして。」
「その結果をもとに、地下都市の設計図を毎日更新します。」
悠真は驚いた。
「つまり設計図は。」
「完成してから持っていくんじゃない。」
佐藤はうなずく。
「月が、自分で設計図を完成させていくんです。」
月を知る者だけが街を造れる
白石は最後に一枚の写真を映した。
それは地球だった。
青く輝く美しい星。
「人類は。」
「まず地球を知りました。」
「だから街を造れました。」
次に月が映る。
「月も同じです。」
「知らない土地に都市は造れません。」
「だからPROJECT EDEN最初の仕事は。」
「建設ではなく。」
「理解することです。」
第13章へ
会議が終わろうとした時、一通の速報が届いた。
「月周回探査機から、新しい地形データが公開されました。」
画面には、これまでより高精細な南極の地図が映し出される。
白石は静かにその画像を見つめた。
「いよいよ。」
「候補地を、一つに絞る時が来ました。」
その一枚の地図が、人類最初の月面都市の運命を決めようとしていた。


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