PROJECT EDEN 第18章

AI・プログラミング

第18章

最初の開拓者

「第一回月面探査ロボット選定試験を開始します。」

その発表は、世界中の研究機関へ同時に配信された。

応募したロボットは百二十六種類。

建設ロボット。

掘削ロボット。

運搬ロボット。

探査ローバー。

四足歩行ロボット。

二足歩行ロボット。

ドローン。

それぞれが、自らこそ月面開発の第一歩を担う存在だと主張していた。

しかし、白石は静かに言った。

「選ぶのは、一番優秀なロボットではありません。」

月で生き残れるロボットです。」


地球では分からない

試験会場は、世界各地に設けられた。

日本では火山灰を利用した模擬レゴリス施設。

アメリカでは真空チャンバー。

ヨーロッパでは極低温実験棟。

オーストラリアでは砂漠を利用した長距離走行試験。

それぞれが異なる環境を担当していた。

しかし、水野は会議でこう語る。

「どれだけ設備を整えても、地球は月ではありません。」

悠真が尋ねる。

「つまり……。」

「最後は本物の月で試験するしかない。」

白石は静かにうなずいた。


レゴリスの洗礼

最初の試験は、月の土を再現した走行試験だった。

レゴリスは砂ではない。

細かく砕けた岩石の粒子であり、角ばった粒が多く含まれる。

地球の砂のように丸く削られていないため、機械のすき間へ入り込みやすい。

タイヤ。

関節。

軸受け。

カメラ。

試験開始から三時間。

最初の脱落機が出た。

駆動部へ粒子が入り込み、車輪が回らなくなったのだ。

続いて別のロボット。

冷却装置へ粉じんが侵入し停止。

悠真は画面を見ながら小さくつぶやく。

「月は戦う相手じゃない。」

「理解しなければならない相手なんですね。」


二足歩行か、車輪か

翌日は移動能力の比較試験だった。

大型スクリーンには二つの映像が並ぶ。

左。

六輪ローバー。

右。

二足歩行ロボット。

平坦な場所ではローバーが圧倒的に速い。

しかし岩場へ入ると状況が変わる。

段差。

岩。

急斜面。

二足歩行ロボットはゆっくりと歩き続ける。

ローバーは遠回りを余儀なくされる。

水野が説明する。

「どちらが優れているかではありません。」

「役割が違うのです。」

白石が続ける。

「街づくりに必要なのは、一台の万能ロボットではありません。」

「それぞれの得意分野を持つ仲間です。」


故障は失敗ではない

三週間にわたる試験。

結果は予想以上に厳しかった。

百二十六種類のロボットのうち、

最後まで重大な故障なく試験を終えたのは三十七種類。

記者が尋ねる。

「半分以上が失敗ですね。」

白石は首を横に振った。

「違います。」

「今日、私たちは百二十六通りの失敗を学びました。」

会場が静まる。

「失敗した原因が分かれば。」

「次は改善できます。」

「宇宙開発では。」

「失敗を隠すことが最大の失敗です。」


AIが育てる

試験終了後。

すべてのデータはPROJECT EDENのAIへ送られた。

歩き方。

転倒。

摩耗。

電力消費。

温度変化。

AIは数日間かけて解析を続ける。

そして新しい設計案を提示した。

「関節部を変更。」

「防じん構造を改善。」

「消費電力を12%削減。」

「移動経路を最適化。」

悠真は画面を見つめる。

「ロボットが経験して。」

「AIが学んで。」

「次のロボットがもっと良くなる。」

佐藤が微笑む。

「そう。」

「これがPROJECT EDENの進化です。」


第一世代

数か月後。

世界中の研究者が再び集まった。

壇上には、十六台のロボットが並んでいる。

探査。

掘削。

建設。

運搬。

保守。

点検。

それぞれ異なる役割を持つ。

白石は静かに言った。

「彼らは完成品ではありません。」

「PROJECT EDEN第一世代です。」

「彼らが月で学びます。」

「そして第二世代は、もっと優秀になります。」

「第三世代は、さらに賢くなるでしょう。」

「文明とは。」

「一世代で完成するものではありません。」


悠真の決意

試験会場を歩きながら、悠真は一台の建設ロボットの外装にそっと触れた。

冷たい金属。

しかし、その向こうには未来が見える。

「君たちが。」

「最初に月へ行くんだな。」

返事はない。

それでも悠真には、不思議な安心感があった。

彼らは人類の代わりではない。

人類の未来を切り拓く仲間なのだ。


第19章へ

その日の夜。

未来設計室へ一本の通信が届いた。

送信元は国際宇宙協力機構。

件名は短かった。

『第一回月面実証ミッション、打ち上げ日程決定。』

会議室は静まり返る。

白石は窓の外に浮かぶ月を見上げた。

「いよいよだ。」

設計図でも。

シミュレーションでもない。

PROJECT EDENは、初めて本物の月へ向かう。

人類の新しい歴史が、静かにカウントダウンを始めていた。

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