PROJECT EDEN 第6章

AI・プログラミング

第6章

世界は動くのか

「次の会議には、海外からも参加してもらいます。」

白石のその一言で、部屋の空気が変わった。

「海外……。」

悠真は思わず聞き返した。

「はい。」

「アメリカ、ヨーロッパ、日本、そしてアジアの研究者たちです。」

「ただし。」

白石は少し笑った。

「これは正式な国際会議ではありません。」

「未来について語る、小さな勉強会です。」


一週間後。

未来設計室の大会議室。

壁一面の大型モニターに、世界各地の映像が映し出されていく。

ヒューストン。

パリ。

ミュンヘン。

バンガロール。

東京。

それぞれの部屋で、研究者たちが画面越しに挨拶を交わしていた。

悠真は緊張していた。

画面の向こうにいるのは、論文でしか見たことのない第一線の研究者たちだった。


最初の問い

白石は挨拶を終えると、いきなり一枚のスライドを映した。

そこには大きく一行だけ書かれていた。

「なぜ、人間が最初に月へ行かなければならないのでしょうか。」

部屋が静まり返る。

しばらくして、アメリカの研究者が口を開いた。

「それは、人類の夢だからです。」

ヨーロッパの研究者も続く。

「人間が歩くことに意味があります。」

白石はうなずいた。

「私も、その夢を否定するつもりはありません。」

「しかし、質問を変えます。」


目的は何か

白石は月面基地の完成予想図を映した。

「私たちの目的は何でしょう。」

「月へ旗を立てることですか。」

誰も答えない。

「違います。」

「人類が安全に暮らせる環境をつくることです。」

次のスライド。

病院。

居住区。

発電施設。

水循環設備。

地下トンネル。

「これらが完成して初めて、人類は安心して暮らせます。」

「ならば、その街を造るのは誰でしょう。」

画面越しに沈黙が続いた。


AIの現在地

今度は悠真が立ち上がった。

白石から目配せを受けていた。

「皆さん。」

「AIは、もう文章を書くだけの存在ではありません。」

画面には、工場で部品を組み立てるロボット。

倉庫で荷物を運ぶロボット。

無人建設機械。

災害現場で活動する遠隔ロボット。

「これらは未来ではありません。」

「現在です。」

「それぞれ別々に進化してきました。」

「しかし、それらを一つの目的のために統合した例は、まだありません。」

悠真はゆっくり会場を見回した。

「私たちが提案したいのは、新しい技術ではありません。」

「新しい考え方です。」


世界は一国では造れない

日本の建設技術者が話し始める。

「地下都市を掘る技術はあります。」

続いて空調研究者。

「閉鎖空間の空気を循環させる技術もあります。」

宇宙輸送の専門家。

「大型貨物を月へ送る技術も、十年以内には実現可能でしょう。」

通信研究者。

「遅延を考慮したAI制御も研究が進んでいます。」

白石は静かに言った。

「一つ一つは、もう存在しています。」

「問題は、それらが別々に研究されていることです。」

「だから私は提案します。」

「人類共通の設計図を作りませんか。」


国ではなく、人類

アメリカの研究者が尋ねる。

「その計画は、どの国が主導するのですか。」

白石は首を横に振った。

「どの国でもありません。」

「では、誰が責任を持つのですか。」

「人類です。」

少し笑いが起きた。

「理想論だ。」

「国家予算は国が出します。」

「企業も利益が必要です。」

白石はその言葉を待っていたかのようにうなずいた。

「その通りです。」

「だから、今日は資金の話をしましょう。」


投資ではなく共通基盤

白石は新しい資料を映した。

「月で開発された技術は、地球でも使えます。」

無人建設。

災害対応ロボット。

完全循環型の水処理。

超省エネルギー空調。

AIによる都市管理。

「月だけの技術ではありません。」

「人口減少。」

「災害。」

「砂漠化。」

「極地。」

「地球そのものが、この技術を必要としています。」

画面の向こうで、数人の研究者が姿勢を変えた。

「つまり。」

悠真が続ける。

「月へ投資することは、地球へ投資することでもあるのです。」


会議の終わり

三時間に及んだ議論が終わった。

結論は出なかった。

当然だった。

たった一度の会議で、人類の未来が決まるはずがない。

しかし、退出する研究者たちの表情は、会議が始まる前とは違っていた。

画面越しに、一人の女性研究者が言った。

「白石さん。」

「今日、初めて気づきました。」

「私たちは月へ行く方法ばかり考えていました。」

「でも、本当に考えるべきだったのは。」

彼女は少し微笑んだ。

「人類が、どうやって月で暮らすかだったんですね。」

白石は静かに頭を下げた。

「ありがとうございます。」

「その言葉が聞けただけで、この会議を開いた意味がありました。」


第7章へ

会議が終わり、人が帰った後。

悠真が資料を片付けていると、白石が一通のメールを開いた。

送信者は、ある宇宙機関の研究責任者だった。

本文は短い。

「正式に話を聞きたい。」

白石は画面を見つめたまま、小さく息をついた。

「ようやく。」

「最初の扉が開きました。」

しかし、その扉の向こうには、想像以上に大きな壁が待っていることを、この時の二人はまだ知らなかった。

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