人間の記憶は実際より書き換えられる?
私たちの脳が「過去」を編集している理由
「昔のことをはっきり覚えている」
そう思っていても、その記憶は本当に事実通りでしょうか?
実は、人間の記憶はカメラの映像のように正確に保存されているわけではありません。
思い出すたびに、少しずつ書き換えられていることが、心理学や脳科学で分かってきています。
記憶は「再生」ではなく「再構築」
私たちは記憶を
「脳の中に保存されたデータを再生している」
と思いがちです。
しかし実際には、記憶は
思い出すたびに脳が作り直しているものです。
そのときに、
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足りない部分を補ったり
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今の気分に合うように修正したり
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他の記憶と混ざったり
することで、元の出来事とは少し違う形になっていきます。
なぜ記憶は書き換えられてしまうのか?
① 脳は「正確さ」より「効率」を優先する
脳は、すべての情報を細かく覚えるのが苦手です。
その代わりに、意味や印象を中心に記憶します。
例えば、
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会話の正確な言葉 → 忘れやすい
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「嫌な思いをした」という感情 → 残りやすい
その結果、細かい部分は後から脳が補完します。
② 思い出す行為そのものが上書きになる
記憶は、思い出した瞬間に一度「不安定」な状態になります。
その後、少し変化した内容で再び保存されます。
この現象は
「再固定化(リコンソリデーション)」
と呼ばれています。
つまり、
記憶は思い出すたびに更新される
ということです。
③ 感情が記憶を変えてしまう
感情は記憶に強く影響します。
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怒りや恐怖 → ネガティブに強調
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懐かしさ → 美化されやすい
例えば、
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子どもの頃は大変だった出来事が
→ 大人になると「楽しかった思い出」に変わる
これは、脳が今の自分に都合の良い形で過去を編集するためです。
よくある「記憶の書き換え」例
● 勘違いの記憶
「確かにあの人にこう言われた」と思っていたことが、
実際には言われていなかった、という経験はありませんか?
本人にとっては嘘ではなく、
脳がそう記憶してしまっているのです。
● 目撃証言の食い違い
同じ事故や事件を見た人でも、
証言内容が大きく異なることがあります。
これは、
記憶が主観的に再構築されているため起こります。
記憶が不正確なのは「欠点」ではない
記憶が書き換えられるのは、悪いことばかりではありません。
記憶が柔軟だからこそ
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トラウマを和らげられる
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失敗から立ち直れる
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人間関係を続けやすくなる
もし記憶が完全に正確だったら、
人はもっと過去に縛られて生きることになるでしょう。
まとめ
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人間の記憶は正確な記録ではない
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思い出すたびに再構築され、書き換えられる
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感情や思い込みが大きく影響する
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不正確さは、人が生きやすくなるための仕組み
「記憶違い」は誰にでも起こる自然な現象です。
それを知るだけで、人にも自分にも少し優しくなれるかもしれません。

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